平戸で「農」をしてみたら

23年取材・制作

「この先の人生、平戸で農業をして暮らしていく」と決意し、
日々励み続ける皆さまに〝新規就農〟と〝平戸での生活〟の
それぞれの夢を実現すべく、実情を語っていただく
U・Iターン新規就農者による座談会です!

西 早世さん(イチゴ農家)
西 早世さん(イチゴ農家)
1987年9月生 長崎市出身

幼い頃は父が仕事で家にいないことが多く寂しい思いをしたために、家族と過ごす時間の多い農家に嫁ぐことを望んでいたところ、婚活イベントで政則さんと出会い結婚。現在2歳の男児の母として、平戸での農家生活を過ごしている。

西 政則さん(イチゴ農家)
西 政則さん(イチゴ農家)
1984年5月生 大村市出身

東京での会社員時代にバイク事故で大ケガをして地元にUターン。その後、平戸で農家をしていた祖父の所で手伝いをしながら療養させてもらうこととなり、次第に農業にはまる。農業大学卒業・農業法人勤務を経て、平戸にて就農。

令和4年度 新規就農認定

蛭子屋 克行さん(イチゴ農家)
蛭子屋 克行さん(イチゴ農家)
1980年11月生 平戸出身

平戸で生まれ育つ。18歳で大阪の工作機械メーカーに就職し約8年を過ごす。地元に戻りいくつかの職を経験後、母親が所有する平戸市田平町の畑を継ぐ話があり、昔から農業に興味があったことと、本誌に影響を受け就農を決意。

令和3年度 新規就農認定

乾 史弥さん(アスパラガス農家)
乾 史弥さん(アスパラガス農家)
1989年5月生 大阪出身

大阪で運送業などの会社員生活を過ごすも、刺激の無い生活からの脱却・田舎暮らしの夢を求めて平戸に移住。収穫3年目を迎えた今年、晴れて結ばれた奥様と二人三脚でアスパラ生産に励んでいる。大の生き物(虫)好きでもある。

令和元年度 新規就農認定

三浦 逸人さん(アスパラガス農家)
三浦 逸人さん(アスパラガス農家)
1974年9月生 北海道出身

北海道札幌市で生まれ、20歳から東京に出て、ホテルや居酒屋など飲食業界に従事。その際食材に対して興味が湧き肉の卸業へ転職。卸市場で新鮮な国産野菜に触れる機会が多くなり、今度は作る側に興味が転じ、就農を決意する。

令和4年度 新規就農認定

三浦 由実さん(アスパラガス農家)
三浦 由実さん(アスパラガス農家)
1970年12月生 神奈川出身

神奈川で生まれ育ち、地元で芝居の世界へ。拠点を東京に移した際に逸人さんと出会い結婚。劇団で順調な芝居生活を過ごすものの、コロナにより公演のほとんどが中止に。それを機に夢だった田舎生活実現のため、平戸に移住を決める。

Iターンの方々は移住後、平戸にどんな印象をお持ちですか。

【三浦由】

未だにトイレが汲み取り式だったり、老朽化の進んだ建物が並んでいるのを見ると、なんだかタイムスリップしているみたい!

【三浦逸】

世間的には男女平等を謳っている時代において、まだまだ男性優位だなと感じますね。たまに外で洗濯物を干してたりすると周りのおばあちゃんたちから「男なのに偉いね・珍しいね」とか言われたりします。

【三浦由】

半面、自分が小さい時は知らない人でも道ですれ違ったら「こんにちは」と挨拶していたのが、大人になったら気持ち悪がられるのでしなくなった。平戸ではみんなが当たり前に挨拶しているのはすごくいいなって思います。

【西 政】

僕はここに来た時、平戸の親戚から「知らない人でも挨拶しとけ」って言われてずっと実行してます。
見覚えのない人から話し掛けられて、受け答えしたけど結局誰だっけ? みたいなことが結構(笑)

【蛭子屋】

自分は平戸で生まれ育ちました。とりあえず挨拶はするけど名前も知らないおばちゃんとか結構います。でも田舎はそういうのが面白いですよね。全く知らないおばちゃんの家庭の事情を聞くとか。

蛭子屋 克行さん(イチゴ農家)

良くも悪くも昔がまだ残ってるっていう感じですね。その他、移住前・移住後の平戸に対するイメージギャップなどはありますか?

【西 早】

思っていた通り。でもやっぱりトイレが汲み取り式なのはビックリでした!

【 乾 】

僕は逆にもっと不自由な所だろうと思って平戸に来たのでギャップは無いですね。車は普通に 通っているし、買い物も店にないものはネットで買えるし。ただ、人見知りな人が多いと感じ ます。今では普通ですが自分みたいに他所から来た人間には、最初はやっぱり抵抗感があった のでしょう。

他の方は平戸の人が閉鎖的だと感じたことはありますか?

【三浦逸】

僕らは獅子町に住む新規就農の取組が同期の山辺君から家と農地を紹介してもらったので、山辺君の知り合いということで周りの人からも警戒なくガンガン話しかけられました。「アスパラをやるために北海道から来た三浦さんですよね。」と。今では「頑張ろう会」という若手の集まりに入って、地元の方々と一緒に夏祭りの計画や神事の「おくんち」を手伝ったりしています。顔を売るってわけじゃないですけど、最初は自分から飛び込んでいかないと、と思いながらも、思った以上に行事があるなぁ……来年以降アスパラの収穫が始まると続けられるかな……って、少し不安になります(笑)

【西 早】

「頑張ろう会」は男性だけの集まりですか?

【三浦逸】

基本的にそうですね。僕らの集落ではそういう集まりの後には必ず飲み会があるのですが、女性はその準備をしてくれている。

【三浦由】

朝から女性が数名集まって、色んなおかずやつまみを作って、みんな食べたらその片付けもしなきゃいけない。それが回数多いと、決して嫌ではないんだけど、大変だなぁと思う。

【西 政】

うちの地域にもあるけど、両親が健在でそこはカバーしてくれてるので、まだその大変さは感じられてないですね。

【蛭子屋】

僕は生まれが平戸の漁師まちで「モグラ打ち」※ や「網上げ」などみんなが集まる行事が結構あって公民館で用意するのは大変だったと思います。今は平戸の中心部付近に住んでいますが、子どもが減ったのもあり地域行事はほとんどない。ちょっとした道掃除が月に一、二回あるくらい。

【三浦由】

獅子町の前は中心部のアパートに住んでいたのですが、年一回道掃除する程度でした。余談ですが、そのアパートは乾さんも以前住まれてた所(笑)

【三浦逸】

移住の際、まだ農地が決まってなかったので、とりあえず住居を……と思っても物件が少ない。
ちょうど年度跨ぎの時期で、新任公務員などの人たちが増えるので、余計に物件がなかった。
最終的に選べるアパートが二軒しかなく、結局「久田アパート」に。

【蛭子屋】

平戸はアパートを所有している人が限られているので、アパート名ではなく持ち主名で呼ぶんです。

【三浦逸】

アパート名はあるけど、みんな「久田アパート」って呼んでました(笑)

モグラ打ち
モグラ打ち

農作物の害獣とされるモグラを追い払い、五穀豊穣・無病息災などを祈る伝統行事。子どもたちが竹わらをくくりつけた棒を手に各家庭を巡り「14日のもぐら打ち、お家の繁盛祝います。繁盛、繁盛」と口上を唱えながら地面に打ち付ける。

実際に平戸で就農しての楽しさ・やりがいはどんな事ですか。

【 乾 】

僕は生き物に触れ合うのが1番好きなことなので、小さな虫1匹にしても大阪じゃ見つけられなかったのが平戸では簡単に見つかる。それがめちゃくちゃ楽しい。あとは個人事業主なので、頑張るほどお金になるのが1番のやりがいですね。

乾 史弥さん(アスパラガス農家)
【三浦逸】

僕らは始めたばかり。アスパラの収穫自体が未経験なので、儲かるという実感はないですが、家の横の小さい畑で自分たちが食べる分の野菜を作ってそれを食べると、平戸に来て農業やっているんだとすごく実感します。それに、やっぱり採った直後の野菜に勝るものはない。ピーマンでも生で食べるのが1番美味しくてバリバリ食べてます!

【三浦由】

ベランダにプランターを置いて作ったりはしていたんですけど、やっぱりプランターと畑とではできるものが違う。太陽の当たり具合から違いますしね。

質問が逸れますが、北海道と平戸のアスパラは何か違ったりするんですか?

【三浦逸】

北海道は規模が大きく雪も多いので、ハウスじゃなく露地栽培が多いみたい。

【三浦由】

東京では北海道産アスパラってあまり売っていないのか、ほとんど食べたことがなかったですね。
時期によって外国産は三本100円で国産は三本198円なので、いつも外国産を買っていたこともありますが……。

農業の楽しさは、作ったものを食べられる喜びであったり、やればやるほど儲かるというところは皆さん共通する感じでしょうか?

【蛭子屋】

自分は常に動いていないとダメ人間になってしまう(笑)。農業ってどれだけでも自分の好きなように働けるし、休もうと思えば休める。収穫時期は休めないこともありますが、品種改良とかも好きなように試せて、改良することで収量が上がったりする。これも農業の楽しみだと思います。

【西 政】

今年はいっぱいいっぱいで楽しむ余裕がなかったです。元々、ゼロから自分で決めて計画・実行・反省・改善することをしたくて就農したんですけど、今はまだそれができず師匠や先輩たちから言われたことに追いつくのに時間がかかっている状況です。一方で、作業の中での楽しみやワクワクはあります。また、今まで祖父母宅などに遊びに行けば、お米や野菜をもらって帰っていたのが、去年は初めてイチゴが出来て、それを少しとはいえ、あげる立場になれたのはやりがいを感じる。しかも、それをおいしいって言ってもらえて。嬉しいですね。

西 政則さん(イチゴ農家)
【西 早】

今は日々の仕事をこなすので目一杯で、楽しむところまでは……。自分がイチゴを育てるのではなくイチゴに遊ばれている感じなので(笑)、それが逆になれば楽しくなるのかなと思います。頑張りたいです。

【西 政】

ごめんね、いつも苦労させて……(笑)

農業の厳しさはどういうところだと思いますか。

【蛭子屋】

なかなか自分の思うようにはいかないこと。特に1、2年目は、やってるつもりなのにどんどん 遅れていく。気づいた時には時期ごとのやるべき作業ができていなかったことがいくつかあって。その時はやっぱり厳しいなと思いましたね。

【 乾 】

自分も作業が遅い。以前、他の人の作業と比べてみて、自分にできないことはやらなくていいや、 とやらなかったことがあるんですが、そこがダメになってくるみたいなことがありました。勝手に省略して、結果それがダメになっちゃう。

【三浦由】

ウチもやるべきことが全然追いついてない。株は順調に育っているけど育ちっぱなし。もっと 細かく切ったり色々しなきゃいけないんですけどワサワサ。今日も朝から作業しましたが、ハウスの中は40度超えたりするので暑くてなかなか進まない……。

三浦 由実さん(アスパラガス農家)

今年は特に暑くて(作物の)病気が結構出ているんですよね?

【蛭子屋】

どの野菜も出てるみたい。やはり異常気象が植物に影響を与えますよね。

【三浦逸】

正直まだ病気なのか何なのかを判断できない。これ何だろうと思って写真撮って師匠に送り、「これは病気だよ」って返信が来たら薬を撒く、の繰り返しです。虫にも悩まされます。先日、見たことない切り口でアスパラが食われてて、師匠からも「こんな傷見たことない。ネットがこすれたんじゃないか」と言われたのですが、遂に現場を押さえて……キリギリスの犯行でした。「お前だったのか!」と思わず叫びましたね(笑)

(役所)

バッタ類は結構農作物を食べますね。それと、コオロギとかからも露地野菜の苗を植えた後に食べられて苗が枯れてしまうこともあります。農薬は必要最低限にしたいのですが、やっぱり最初だけは撒いておこうかなってなる。

やっぱり1回1回対処していかないと、後々大変な事になる?

【三浦逸】

原因が何なのかが分からないので、なかなかすぐに対処できない。そうしている間に病気が広がったり、虫が大量発生したり。

(役所)

ハウスはその品目専用の特殊な空間。なので、一度、害虫が入ってくると大変な事に……アスパラなら蛾の幼虫のヨトウムシとか、イチゴならハダニとか。

【蛭子屋】

イチゴの場合は年間を通して防虫が必要で、撒く薬の量と種類が尋常じゃない。それをいつどのタイミングで撒くのか全部決まってて、一つでも撒き忘れるとダニが一気に繁殖してしまう。ハウス1棟全部がダニに侵される事もあります。普通のダニなら痒くなるけどイチゴのハダニは人にはあまり害がなく気付きづらい。被害を早めに発見できれば1番いいんですが、なかなか難しい。

苦難もある中、師匠や先輩に助けれられたエピソードは。

【蛭子屋】

初めての植付けの時、何も分からず1万何千株を母と二人でやる予定だったのですが、その事を部会の人たちに言ったら「えーっ、二人じゃ無理! すぐに植え付けんといかんのに!」と。
次の日に部会の皆が来てくれて、チャチャッと全部植え付けて、ササッて帰っていかれて(笑)。その時に「新人だからもちろん手伝うよ。ちゃんと頼れよ」って言葉がものすごく嬉しかったです。

【西 政】

僕らも同じように、師匠や他の皆さんがビニール張りを手伝ってくれたり、植え付けも「皆で植え付けないと終わらないぞ」って助けてくれました。

【西 早】

その作業がまた早いんです! すごく助かりました。

西 早世さん(イチゴ農家)

アスパラ部会もそんな感じですか?

【 乾 】

時期によりますね。

【三浦逸】

コロナで部会の集まりが中止になってて、最近やっと月一回の検討会も復活しました。部会もだけど、諸先輩方が僕ら新規に対して優しくしてくれて、分からないことを聞きに行けば親身に答えてくれます。

【三浦由】

アスパラのことは研修でお世話になった師匠に、分からない虫のことは乾さんに聞いてます!

就農時期が割と近い新規同士、お互いへの質問。

【西 早】

確定申告ってどうされていますか? 「これでいいのかな?これで合ってるのかな?」って半信半疑で……。

【三浦由】

青色申告ですが、自分で分かる範囲で携帯で調べながらやってます。 でも去年はもっと勉強して たらもう少し節税できてたのになぁという後悔がありますね。

【 乾 】

自分はパソコンのソフトを使ってます。数字を入れれば勝手にできるみたいな。

【蛭子屋】

有料ですが農協さんのサポートがあります。毎月レシートを全部渡せばそれをまとめて最終の 確定申告の時に書類を全部いただけます。ただ、出し忘れたレシートがあった時は言いづらいことも(笑)。自分もソフトでやってはいるんですが、消費税とか今度のインボイスとかやっぱり難しい……。

市や県の方で、新規就農者に対する確定申告の講習会などありますか?

(役所)

県の研修で講習はやっていますが、実際はそれ以上の問題が出てくるのでしょうね。いろいろな事例は農協さんのケーススタディが一番多いかも知れませんし、あとは農業法人を対応をされてるような税理士さんにも話を聞いてみたいと思います。話が分かりやすい方がいれば、講義の実施も検討します。

平戸での就農、どんな人が「大丈夫」?「辛いかも」?

【三浦逸】

そもそも現段階で自分が適合してるかどうかもはっきり分かっていない。

【三浦由】

虫がダメな人は向かないかな。自分も得意じゃない。肌が弱く、この間も「ヤケドムシ」で顔がパンパンに腫れ1ヶ月の通院。周りからは「なんで農業してるの?」とか「由美ちゃん向いてないよね」って言われますね(笑)

【蛭子屋】

乾さんくらい虫の知識があると「こいつはあれだな」とか分かるんですか?

【 乾 】

こっちに来る前にそういうのは頭の中に入ってました。

【蛭子屋】

すげえ! 地元の僕でもわかんないですよ!

【西 早】

私は鳥が苦手で、カラスとかが怖いです。トンビやサギも。平戸は鳥がいっぱいいるので、見かけたら迂回したりします。鳥好きな人はいいかもしれない(笑)

【蛭子屋】

蜂は大丈夫ですか? イチゴのハウスはミツバチを入れて受粉させるんですけど、皆さんだいたい年に一、二回は刺されるジンクスがありますからね。

【西 早】

まだ刺されたことは無いですけど、好きではないです。

【西 政】

僕は二回刺されました。結構腫れましたね。

【三浦逸】

僕はムカデにやられました。軍手に手を入れたら何か違和感があって。ムカデ自体を見るのも初めてだったので、とりあえず病院に行ったのですが、半笑いで看護師さんに待合室で処置されました、先生の診察はないまま(笑)

三浦 逸人さん(アスパラガス農家)
【蛭子屋】

平戸ではムカデに噛まれたくらいじゃ病院に行かないからですね!

【 乾 】

都会の人はムカデに噛まれる以前に見たことない人も多いでしょうから。虫もですが、きれい好きや潔癖な人はあまり農業には向いていないかもしれませんね。

【蛭子屋】

Iターンの人で「誰かがやってくれるだろう」「あの人が言ってたから、言われたからここに来ました」みたいな感じの人ってなかなか定着しづらいし、農業も難しい。逆に「ここいいな、ここに住んで農業しよう!」って自分で決めて動ける人は絶対合ってると思う。

【西 政】

そもそも移住して来た方というのは行動力がある人だと思いますが、生活・農業のことで自分がいっぱいいっぱいになった時、相談できる人を作っていける方が向いていると思います。まずは挨拶、そこからの軽い会話ができる方。最初は平戸の方言が分からないかもしれないけど、会話していくうちに地元事情などがだんだんと分かってきて楽しくなる。逆に、話しかけてこないでっていうオーラを出してる方だと、のちのち間違いなく辛くなります。相談できる人が増えてくるといい。家族や友達だったり、近くの人じゃなくても話せる場を持ってる人はいいと、身をもって痛感しています。それを理解・実践できる方にぜひ平戸に来てもらい、一緒に農業したいですね!